「医ケア児支援法改正」
2026年7月、医療的ケア児支援法が改正されたというニュースを見て、私は素直には喜べませんでした。頭の中を占めていたのは、こんな声です。

「うちの子が18歳になったら、支援はどうなるんだろう?
法律が変わったらしいけど、結局支援は充実するのかな?」
皆さんはそんなモヤモヤを抱えていませんか。
2026年7月、医療的ケア児支援法が改正されました。
この記事を読めば、何がいつから変わるのか、そして法律が変わっても変わらない現実が何なのかがわかります。
あわせて、今のうちに確認しておきたいことも書きました。
読み終えたとき、漠然とした不安が「今できること」に変わっていれば嬉しいです。
「医療的ケア児支援法」ってそもそも何?
いわゆる『医ケア児』が社会的に認識され出来た法律
簡単におさらいします。
医療的ケア児支援法は、2021年にできた法律です。
正式名称は「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」
背景には2014年の障害者権利条約への批准が影響していると考えられます。
日本は190超ある世界の国々の中で、141番目の締約国です。そう、すごく遅いんです。
障がい者に関する人権意識の低いこの国で、当事者がこれを武器に制度改革を求めました。
以前よりずっと活動は存在していましたが、日本政府も国際社会の一員として制度を変えざるを得なくなったということだと考えます。
たんの吸引や経管栄養など、日常的に医療的ケアが必要な子どもとその家族を、国や自治体が支援する責務を負う、というのが柱でした。
保育所や学校での受け入れ体制を整えることが、この法律をきっかけに少しずつ進んできました。

2026年7月、法律が変わった――「18歳の壁」に手が入った
「医ケア児支援法」の改正
2026年7月24日、参議院本会議でこの法律の改正案が可決されました。
公布は7月31日。施行は2027年4月1日からです。
具体的に何が変わるのか、まとめます。
法律の名前が変わります
「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」に改称されます。長い名前ですが、それだけ対象が広がったということです。
支援の対象が広がります
- 医療的ケア児から大人になった人で、日常生活に医療的ケアが必要な人
- 成人後に医療的ケアが必要になった人
- 重症心身障害者(医療的ケアの有無を問わない)
つまり、以前の『医療的ケア児支援』より対象を広げ、18歳以上や医療的ケアの無い重症心身障害者を含めることになりました。
広い対象の支援を目指す体制を整えていく目的をもった法律になりました。

新しい条文ができます
- 第11条の2:18歳を過ぎても、切れ目なく地域で必要な医療を受けられるよう、国と自治体が必要な措置を講じる責務を明記
- 第11条の3:就労支援
- 第11条の4:住居確保
障がいが無くならないまま、年齢で支援が切れていました。
しかし、家族は障害のある子供をずっと育て続けています。老後の備えなど十分にできない中、老障介護へと突入する現状を支援し、変えていく必要があります。
『親亡き後問題』解消のため、障がい者の就労と住居の確保が必要と言えます。
近年、公的機関であるURでも、障がいのある方の入居を事実上阻む運用がありました。
大阪府枚方市の女性が、NPOの支援のもと自立生活の練習を重ね、入居の申請をしました。
しかし、窓口で他者には課さない条件を、障がいの重さを理由に付け加えられたそうです。
この問題は2025年11月、国会で取り上げられ、国土交通省の指導を受けたURは、即日『同居親族要件』を削除しています。
障がい者差別がいまだ存在し続けるという事実と、声を上げれば、制度は動く。この一件は、その両方を教えてくれます。
支援センターの設置が広がります
医療的ケア児支援センターの設置対象が、指定都市や中核市にも広がります。災害時の情報提供なども、業務に加わりました。
災害時の対応はもちろん、医療的ケアや障がいのある人には命に直結する災害備蓄品があります。
日ごろから住居のスペースを圧迫しがちな物品、この問題も何かしらの対策が取れると良いと考えます。
さて、ここまで読むと、「ちゃんと前に進んでいるじゃないか」と思えるかもしれません。実際、私もそう思いました。
2021年の教訓――法律ができても、「先着何名様」だった
法の施行と現実

ここで、もう一つ書いておきたいことがあります。
2021年に医療的ケア児支援法ができた後、私は医療的ケアのある息子の保活を経験しました。
「法律ができたんだから、これから受け入れ先は増えるはず」
当時、素直にそう思っていました。
ですが、実際には非常に狭き門でした。
よほどの幸運の持ち主でもないと、医療的ケア児は保育園に入れません。
ごく一部の保育所だけが、医療的ケア児枠を設けているだけに過ぎないからです。
受け入れ可能人員の確保が課題
こども家庭庁の調査では、2020年度時点で医療的ケア児を受け入れている保育所等は、全国でわずか526か所、受け入れ人数は645人にとどまっていました。
さらに、医療的ケア児がいる市町村のうち71.2%が「医療的ケアを実施できる看護師を確保できない」と回答しています。
つまり、法律ができても、実際に支援を受けられたのは「先着何名様」です。ごく一握りの家庭だけが利用できる制度です。
人手不足と資金不足の中で、現場の保育士さんや看護師さんが、限られたリソースをやりくりしてくれていた。私はそれを、当事者としてすぐそばで見てきました。
制度を支えるための国の財源は、そこに伴走していないためです。
今回の改正でも、同じことが繰り返されないとは言い切れません。対象を広げても、それを支える人手とお金がなければ、「制度はあるのに使えない」という状態が続いてしまいます。
だからこそ、財源については国が責任を持って充て、主導していく必要があると思っています。
そして、厳しさを知っている私たち当事者や、現場を動かす関係者こそが、その必要性を訴え続けなければならないとも思うんです。
でも、この法律は「支えられる側」のための法律だ
『それらの家族に対する支援』の部分
もう一つ、立ち止まりたいところがあります。
今回の改正で新しくできた条文を見直すと、就労支援、住居確保、切れ目のない医療の提供。どれも「ケアを必要とする本人」に焦点が当たっています。
一方で、「ケアする側の親が倒れたとき、子どもはどうなるのか」という視点は、条文のどこを探しても、はっきりとは見えてきません。
今まさに支援を必要としている人々がいること

これは決して珍しい不安ではないと思います。実際、介護を一人で抱え込んだ末に、取り返しのつかない事態に至ってしまったご家族のニュースを、先日も目にしました。
制度の隙間で、まさに今苦しんでいる人がいます。
法律ができたからといって、明日から何かが劇的に変わるわけではありません。施行は2027年4月。
それまでの間、季節を重ね日々のケアは続いています。
そして先ほども述べたように、施行したから支援の手が差し伸べられ何かが解決するわけでもありません。
私自身、自分が倒れる日を他人事だと思ったことは一度もありません。
倒れてわかったこと
身体が動かなくなった
去年の12月、当時小学1年生だった息子がノロウイルスに感染しました。
看病しているうちに、私にもうつってしまいました。下痢はなかったのですが、とにかく嘔吐が止まりません。
普通に熱を出すのとは違った形で消耗し、栄養を取れず回復できない自分がいました。
ひとつ救いとなったのは、息子が元気になっていたことです。
発症から4日経っていて、下痢も嘔吐もすでにおさまっており「明日か明後日には学校に行けるかな」という様子でした。
そのため、30分とか1時間とか意識が落ちても、部屋で動き回る息子が時々私の上に乗ったりするたびに覚醒できました。
「次に寝落ちたらそのまま死んだりして…」そううっすら考えずにはいられませんでした。
その中で、看過できないと思ったのは、息子が自分では何もできないまま一緒に亡くなってしまう点です。
幸運にも、それが昼間で比較的人に声をかけやすい時間帯でした。
医療的ケアのある子の受け入れ先を確保の上で救急搬送

しかし、いざ助けを求めても、他者には息子の医療的ケアはお願い出来ないし、ノロがうつるのは誰だって困ります。そのため救急車を呼ぶことになりました。
聞き知っていた通りでしたが、到着した救急隊員さんも医療的ケアが必要な息子を置いて、私だけを運ぶわけにはいきません。
結局、息子は主治医の先生のいる病院で預かってもらうことになりました。搬送までは1時間以上を要し、これ、脳の出血など緊急な状態だったら相当まずいな。そう確信しました。
私自身は搬送先で点滴を打ってもらい、その日のうちに帰宅できました。でも息子はそのまま、私がノロウイルスから回復するまでの2晩、入院することになりました。
本人は元気になったあとだから、つくづく気の毒な話だと思います。
緊急時受け入れ先の不整備
息子がまだ回復期に入っていなかったり、そもそも病院が受け入れられない時もあるはずです。
その場合、搬送を断念することになったと思います。
「今回はたまたま条件が揃っていただけ」
これは、親の非常時が幸運頼みであるということです。
法律が「18歳の壁」をなくしてくれても、この「もしも」に対する答えはありません。
少なくとも私の周りでは、医療的ケア児の予約制レスパイトは少数ながら存在しても、緊急時受け入れ先として案内されている場所はありません。これが現実です。
今のうちに確認しておきたいこと

必要な準備と下調べ
制度が追いついてくるのを待つだけでなく、今できる備えもあります。チェックリストとしてまとめました。
倒れたくなくても、倒れた時を想定しましょう
実際には緊急一時保護先など存在しない。それを知っていても、倒れる時は来ます。
やけっぱちにならず、用意はしておきましょう。
体が動かなくては準備出来ないからです。この出来事で私はそれを痛感しました。
まとめと最初の一歩

医療的ケア児支援法の改正は、「18歳の壁」をなくすための、確かな前進です。2027年4月から、支援の対象はぐっと広がります。
ただ、2021年の法律がそうだったように、法律ができることと、現場で実際に支援を受けられることの間には、まだ距離があります。
財源を国が責任を持って充て、人手不足という現実に向き合わない限り、「先着何名様」の状態は変わりません。
そして、「ケアする側が倒れたとき」への具体的な備えも、まだ私たち一人ひとりが自分で用意しておく必要があります。
だれもが不安なく生きられるようにするため、工夫と行動を可能な範囲で実行していきましょう。
一つは、お住まいの自治体の緊急一時保護・ショートステイ制度を、まず一度検索してみること。
連絡先をスマホのメモに控えておくだけでも、いざというときの安心感がまったく違います。
もう一つは、声をあげ続けること。「制度はあるのに使えない」という現実を知っているのは、私たち当事者と、現場の関係者です。
必要なのは空虚な法整備ではなく、実効性のある社会の仕組みを伴わせることです。
この声が積み重なることでしか、財源も人手も動いていかないと、私は思っています。
実感を伴った立場から必要性を説くことを止めたら、何の可能性もなくなります。

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