医療的ケア児の保活|申し込んでみて、初めて見えたこと

制度・手続き

「保活」は、共働きが当たり前になった昨今、非常に重要な意味を持ちます。
家庭の今後を大きく左右するからです。
「こどもを保育園に預けて働きたい」大多数の家庭が真剣に取り組んでいることでしょう。

私も医療的ケア児の親ですが、働きたい気持ちで保育園探しを始めました。
しかし、医療的ケアがあるこどもの保活は、一般的な保活とは違います。

保育園を探して、複数の園の希望順位を決めて、申し込む。
そして、指数の高い順に選ばれる。
そんな流れではありませんでした。

この記事を読めば、「なぜ医療的ケア児の保活はこんなに大変なのか」という理由がわかります。
そして、これから保活に挑む方が、不承諾という結果にあらかじめ心の準備をしつつ、それでも申し込むことに意味がある、と思えるようになれば嬉しいです。

保育園の受け入れ体制は、自治体ごとに事情が違います。ここに書くのは、あくまで我が家一つのケースです。
それでも、どこかで同じように悩んでいる方の力になれたら嬉しいです。

医療的ケア児の保活は、普通の保活と何が違う?

医療的ケア児を受け入れる体制

一般的な保活では、家庭の状況などから「保育の必要性」を指数換算します。
その指数をもとに入園選考が行われます。
ところが医療的ケア児の場合、その前に「そもそも受け入れられる園があるか」という問題があります。
看護師の配置や医療的ケア実施の可否、園側の受け入れ体制が整っている必要があるからです。

つまり、指数で競争する以前に、「医療的ケア児受け入れ」という入口があるわけです。
ここを知らずに保活を始めると、「点数が高ければ入れるんじゃないの?」と考えてしまいます。
私も最初は、まさにそんな感覚でした。

実際、医療的ケア児を受け入れている保育所等は、全国的にまだ少数派です。

こども家庭庁の調査(2020年度時点)では、受け入れに対応している保育所等は全国で526か所、受け入れ人数は645人にとどまっています。同じ年医療的ケア児の0-4歳の人数は7093人であり、不足の実態がうかがい知れます。[注6]
2015年からの5年間で施設数・人数とも約2倍に増えてはいますが、都道府県によっては対応施設がゼロというところもあり、地域差が大きいのが実情です[注1]。

さらに、医療的ケア児がいる市町村のうち71.2%が「医療的ケアを実施できる看護師を確保できない」と回答しているという調査もあります[注2]。つまり「受け入れる意思」があっても「受け入れる人手」が足りない、という構造が全国的に横たわっているのです。

「医療的ケア児支援法ができたから大丈夫」……ではなかった

『施行』されても『施行』はされない

私が保活をした頃には、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」ができていました。この法律は2021年9月に施行されました[注3]。

医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律

通称「医ケア児支援法」
医療的ケア児支援法は、医療的ケア児とその家族が地域で安心して暮らせるよう、国や自治体、保育所・学校の設置者にも支援の責務を定めた法律です。
相談体制の整備や人材確保、保育・教育の支援、家族への支援などを進め、医療・福祉・教育が連携して支えることを目指しています。

そのため私は、かなり素直にこう思っていました。
「法律ができたんだから、これからは医療的ケア児も保育園に入りやすくなるんだろう」と。

……ピュアかよ!? 
今なら自分にツッコミを入れたいところです。
法律ができることと、近所の保育園に実際に受け入れ体制があることは、別の話だったのです。

法律には「保育所の設置者は、その保育所に在籍する医療的ケア児が適切な医療的ケアその他の支援を受けられるようにするため、看護師等又は喀痰吸引等を行うことができる保育士若しくは保育教諭の配置その他の必要な措置を講ずるものとする」とあります。
実際に看護師を「確保できるかどうか」までは、法律は保証してくれません。
理念と現場の間には、まだ大きな距離があります。

土足厳禁

靴を脱がなくては入れない建物の入り口に張り紙があります。
「ご自由にお使いください」
しかし、並んでいるのは、21cmのスリッパだけです。25cmの人には使えません。

公立の施設でこれが行われている。
それが「医療的ケア児の保活」です。

医療的ケアがあるから、集団保育ができないわけではない

医療的ケアには色々ある

昨今のXなどによる医療的ケア児受け入れの負担、それに関して伝えたいことがあります。
医療的ケアがあるこどもは、全員が集団保育に多大な負担を与えているわけではありません。
種類も、その子の育ち具合もバラバラです。
そして、受け入れ可能なこどもを充分に審議した上で、受け入れている点を理解して欲しいです。

親が無理やり押し付けている。などということはありません。

それに、保護者の皆さんにとっての医療的ケアは、確かに負担です。
看護資格や医師免許を持っていない上に、無給で見ているのですから。

しかし、頭の中では素人の自分でも出来ること。という認識です。

正直に言うと、私自身もそう感じている一人です。家庭では無資格の親である私が毎日こなしているケアです。国家資格を持つ看護師さんが「できない」「大きな負担になる」ということは考えづらいです。

しかし、保活を経験して分かったのは、難しさの正体は「医療行為そのものの難易度」だけではない、ということです。
家庭で私は、自分の子だけを対象に看護しています。
息子のちょっとした変化にすぐ気づいて、その場で対応できる自信があります
一方、園の看護師さんは、複数のこどもを同時に、法律上の責任を背負いながら見なければなりません。しかも急なお休みや他の業務との兼ね合いもあります。

「一人の子を深く知っている親」と「大勢の子を法的責任のもとで見る専門職」とでは、そもそも背負っているものの種類が違う。そう考えると、世論で言われる「受け入れ負担」にも、根拠がないわけではないのだと、今は思うようになりました。

必要なケアの内容や頻度、こどもの体調、園の体制などによって、受け入れの条件は変わります。
園を運営する上で、可能と判断できる子だけを選んで受け入れられる。
退院までに突貫で、無資格者に手技を履修させる。
こういった家庭での受け入れとは根本的に違います。

実際、現在は自治体が看護師の配置や研修、保育補助者などを支援する仕組みもあります。
東京都にも医療的ケア児保育支援事業があり、看護師等の配置などを補助しています[注4]。
こども家庭庁も同様の事業を全国の自治体向けに実施しており、看護師確保や補助者配置にかかる費用の一部を支援しています[注5]。

「受け入れ園が3か所」と「3か所から選べる」は違う

現実的には選択肢が存在しない!

当時、自治体からは医療的ケア児を受け入れる準備のある施設が3か所あると説明されました。数字だけを見ると、「3か所もあるなら選べるじゃない」と思うかもしれません。
しかし、通園距離や送迎方法、保育時間、息子に必要な医療的ケアなどを考える必要があります。
何より空きが必要です。医療的ケア児枠は、1つの園につき1人分しかありませんでした。

我が家の場合、現実的に通える範囲まで絞ると、候補は一か所でした。
自転車で片道20~30分。ここに、一般的な保活とは違う難しさがあります。
「受け入れ可能な園がある」ことと、「家庭が現実的に選べる園がある」ことは、同じではないのです。

ようやく「指数」の話になる

保活の入り口

そして、受け入れ体制の問題をクリアした先で、ようやく一般的な保活と同じように「指数」の話になります。ひとり親であることや、同居する家族がいないことなども、選考上の要素になります。
しかし、私の場合は働いている時間が少なく、就労の点では強い条件とはいえませんでした。
「医療的ケア児がいて、なかなか働けなかった」ということはこの点では決してプラスにはならないのが現状です。

世間一般の保活としての経験はこの段階でようやく体験出来ました。
些細ではありますが「保活してる」という自覚が感じられ、満たされます。
役所の担当者からは、通り一遍ではありますが、在宅酸素の使用や当時の息子の身体的な状態などについても確認されました。

指数以前の問題

私が申し込んだときも、すでに仕事へ復帰している家庭や、育休から復帰する見込みのある家庭が優先されると説明されました。
これは、医療的ケア児の看護が原因で離職をすることを予防する目的があるためだそうです。

すでにお子さんが3歳くらいになり、離職後の場合、産前の職場に復帰予定がないとなると、優先度が下がることになります。
「医療的ケア児を受け入れられる枠」と「保育を必要とする家庭の指数」が、別々の条件として存在していることを実感しました。

ここには、ちょっとした矛盾があります。
医療的ケアがある子を育てるために仕事を辞めた家庭ほど、復職のために保育園を必要としているはずなのに、指数の上では「すでに離職している=就労の必要性が低い」と見なされやすいのです。
離職を防ぐための制度が、すでに離職してしまった家庭を後回しにしてしまう。
この構造は、当事者にならないと気づきにくい部分だと思います。

これは保育園や看護師さんを責める話ではない

現場の負担

ここは、とても大切なところです。医療的ケア児を受け入れられない園があるからといって、その園や看護師さんを責めれば解決する問題ではありません。
看護師が一人しかいない園で、その看護師が対応できる時間を超える医療的ケアを受け入れるのは、現場にとっても大きな負担になります。

実際の保育現場では、看護師の勤務時間やケアの頻度によって、追加配置が必要になるケースもあります。こどもを安全に預かるためには、人員や研修、緊急時の体制なども必要です。
だからこそ、個々の園の努力だけではなく、自治体全体で受け入れ体制を整えることが重要なのだと思います。

先ほど触れた「医療的ケアを実施できる看護師を確保できない」と答えた市町村が7割を超えるという調査結果は、まさにこの現場の苦しさを裏付けています[注2]。
受け入れたくても人がいない、という自治体側の事情も、家庭側の「なぜ入れないのか」というもどかしさと同じくらい、切実なのだと思います。

そして、不承諾になった

届かない通知

結果として、我が家は保育園に入ることができませんでした。通知が届くはずの日になっても届かなかったため、私は自分から自治体へ電話をしました。そして、そこで初めて不承諾だったことを知りました。

不承諾そのものも、もちろんショックでした。でも、それ以上に無力感を感じたのは、保育園の申し込み冊子に「結果は全ての申込者に〇月〇日までに必ず届くよう手配しています」
そう書かれていたことです。
そこに我が家は含まれていませんでした。

「待機児童ゼロ」でも、預け先がない?

医療的ケア児は「未就学児」ではない?

その後、私は「待機児童ゼロ」という言葉にも疑問を持つようになりました。当時、自治体の担当者からは、医療的ケア児については一般的な待機児童の集計とは別に扱っていると説明されました。
さらに、医療的ケア児の申込数自体も、数には含めていないという説明でした。

「待機児童ゼロ」の布で覆われたこどもたち

もちろん、これは当時、私が自治体の担当者から受けた説明です。全国の自治体が同じ扱いをしている、という意味ではありません。
現在の待機児童の集計についても、医療的ケア児ではなくとも一定の条件や除外規定があります。
だからこそ、「待機児童ゼロ」という数字だけを見て、すべての家庭に預け先があると考えるのは危険なのだと思います。
なぜなら、「待機児童ゼロ」であるなら、もう改善は必要ないと解釈されかねない。
しかし、そこにいるけれど、数に含まれない「ゼロ」の布をかけられた見えないこどもたちがいます。

医療的ケア児の保活は、今も変化している

今後に期待を

医療的ケア児を取り巻く制度は、少しずつ変わっています。医療的ケア児支援法では、保育体制の拡充が法律に明記され、自治体や保育施設には必要な支援体制を整えることが求められています。

前述の医療的ケア児保育支援事業のように、看護師確保のための補助金も少しずつ整備が進んでいます。現在も国や自治体による調査や支援策が続いています。

ただし、制度が整ってきたからといって、どの地域でも同じように保育園を選べるわけではありません。看護師の確保や受け入れ枠、医療的ケアの内容、園までの距離など、地域によって事情は違います。
だからこそ、医療的ケア児の保活では「制度があるか」だけでなく、「自分たちの生活圏で実際に使えるか」を確認することが大切です。

保活で一番大きかった壁

振り返ってみると、私が最初に思っていた「保育園に入れるかどうか」という問題は、実はもっと手前から始まっていました。

まず、受け入れられる園があるか。次に、その園へ現実的に通えるか。そして、受け入れ枠があるか。その条件をクリアして、ようやく一般的な入園選考の指数が出てきます。

本当の問題は、こどもに医療的ケアがあることだけではありません。そのこどもを受け入れるための仕組みが、地域にどれだけ用意されているか。
そこが、とても大きいのだと思います。

もし今、これから保活に挑もうとしているなら、伝えたいことがあります。それは、たとえ不承諾になるとある程度予想がついていても、申し込むこと自体に意味がある、ということです。

申し込みという記録が残らなければ、「困っている家庭がいる」という事実そのものが、統計にも自治体の検討材料にもなりません。
不承諾の通知は、正直つらいものです。心の準備をしていても、それなりにダメージは残ります。
それでも、その一件一件が、次に受け入れ枠を増やすかどうかの判断材料になっていくのだと、私は今も信じています。

そのため我が家は、翌年もう一度保育園に申し込みました。

近いうち、再挑戦した保活と、最終的に保育園へ入るまでについて書こうと思います。

参考にした情報
[注1]増え続ける医療的ケア児。保育園や幼稚園、学校の受け入れ体制はどうなっているの?(トータルケアリポート)
[注2]医療的ケア児の保育園受け入れ体制の現状と課題(Soi Nurse)
[注3]医療的ケア児支援法の施行(2021年9月)(TMI総合法律事務所)
[注4]医療的ケア児保育支援事業について(東京都福祉局)
[注5]医療的ケア児保育支援事業(こども家庭庁)
[注6]医療的ケア児の支援について(こども家庭庁)

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