医療的ケア児のレスパイト、住む場所で16倍の差――「休まなくても平気」だった私が、倒れて考えを変えた理由

制度・手続き
ママ
ママ

子どもを預けるくらいなら、自分が頑張ったほうが早い

母
母

レスパイトって聞くけど、うちには関係ないかな

そう思っていませんか。わかります。私もずっとそうでした。
正直、書類も何枚も書きますし、身支度を含めた準備も簡単ではありません。

以前、病院のソーシャルワーカーさんにレスパイトをすすめられたとき、私は断りました。
しかし去年の冬、私は自宅で動けなくなりました。 そのとき初めて気づいたんです。
あのとき断れたのは「たまたま倒れなかったから」だったと。

この記事では、医療的ケア児の家族が休むための仕組み「レスパイト」について、2020年と今で何が変わったのかをまとめました。 そして、住む場所によって使える時間に大きな差があることもお伝えします。

この記事を読んで「何をしておけばいいのか」「いざというとき、どうしたらいいかわからない」という疑問を、すこし減らせるはずです。

レスパイトってなに?――2つの形がある

まず、言葉の整理からです。
レスパイトとは、ケアをしている家族が、ひと休みするための支援のことです。
医療的ケア児の場合、大きく分けて2つの形があります。

① 子どもが施設や病院に泊まる形

「短期入所」や「ショートステイ」、病院での「レスパイト入院」と呼ばれるものです。
子どもが数日間、医療的ケアのできる施設や病院に泊まります。 その間、家族は眠ったり、きょうだいの行事に出たりできます。

② 看護師さんが家に来る形

「在宅レスパイト」と呼ばれるものです。
訪問看護師さんが自宅に来て、数時間、子どものケアを代わってくれます。 その間に、家族は通院や買い物、ひと眠りができます。

たとえるなら、①は「お泊まり保育」、②は「ベビーシッターさん」のイメージです。 どちらも、家族の生活を守る大事な仕組みです。

以前の私は、レスパイトを断った

一度だけ使ったレスパイト入院

2020年の冬、引っ越しをしました。
その作業中、立てない上に無言で動き回る息子の存在は危険です。 そこで初めて、病院に1泊のレスパイト入院をお願いしました。

正直、予想の通りでした。
まず、医療的ケアの説明にとても時間がかかりました。レスパイト先は、確かに息子が入院したことのある病院です。しかし、レスパイトする病棟は、その日に手が空いていて受け入れ可能な病棟になります。
息子を知り、慣れ親しんだ循環器病棟ではなく、内科病棟でのレスパイトと決まってしまった。それが災いしました。

そして翌日迎えに行くと、息子は夜中にチューブやコードに絡まってしまい、抑制帯と重りで体を固定され、手にはミトンをつけられて過ごしたそうです。 朝からは、ナースステーションでずっとアンパンマンのDVDを見ていたと聞きました。(まぁ、お迎えに行った時、ステーション内で看護師さん達に並んでちんまい息子がDVDプレイヤーをみているのを目撃しました)

看護師さんたちが悪かったわけではありません。 基本いつも母親が付き添い入院していた手がかかる子を、忙しい中で精一杯見てくれたのだと思います。
でもこの経験で、私の中に「レスパイトは息子にとってつらいもの」という思いが残りました。

ソーシャルワーカーさんにすすめられた日

その後、初夏辺りのことです。 1歳数か月の息子は、酸素とEDチューブ(鼻から十二指腸まで入れる栄養のチューブ)を使っていました。
変わらず息子は、鼻の経管栄養チューブを留めるシールをはがしてしまう。そしてチューブを引き抜いてしまう。目が離せずに私は、夜もほとんど眠れていませんでした。

さらに、24時間ずっと十二指腸に栄養を入れ続けている息子は、満腹感もなかったのでしょう。
続けて眠るのは45分程度でした。
そのことを訪問看護師さんにぼやいたら、病院のソーシャルワーカーさんに話が伝わりました。
そして、レスパイトをすすめられることに。

でも、私は断りました。 当時の記録に、理由を書き残しています
主なものはこんな感じです。

  • ほぼ毎月入院しているのに、さらにレスパイトで入院させるのはかわいそう
  • 息子を病院に預けても、どうせ私は心配で眠れない
  • 入院すると、息子は顔色が悪くなり、笑わなくなり、おしっこの回数まで減る
  • 十二指腸への栄養チューブを維持するため、ベッドに固定されてしまうのが嫌

今読み返しても、一つひとつはもっともな理由です。 ただ、記録には私はこうも書いていました。

母
母

睡眠不足は無視できないところに行きそう
車で病院に行くし、息子も他者も巻き込んだら最悪

自分でも、危ないことはわかっていたんです。 それでも「レスパイトはしない」と思っていました。

あの頃、全国の家族も同じだった

実はこの前年、国が医療的ケア児の家族の暮らしを調べています。 厚生労働省の「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査」(2019年度)です。

その結果を見ると、こんな数字が並んでいます。

  • 慢性的な睡眠不足に当てはまる家族:71.1%
  • 短期入所を今使っている家族:35.2%
  • 急な病気や用事のときに預け先がない家族:82.7%

10人のうち7人が寝不足なのに、短期入所を使えているのは3人ほど。 そして8人以上が、いざというときの預け先を持っていませんでした。

私だけじゃありません。 多くのご家庭が、ぎりぎりのところで踏ん張っていました。

2026年、何が変わった?

あれから6年。 変わったことも、ちゃんとあります。

① 在宅レスパイトが広がってきた

一番大きな変化は、「看護師さんが家に来る形」の在宅レスパイトを始める自治体が増えたことです。

在宅レスパイトの始まりは、1995年にさかのぼります。
横浜市の看護師さんが、ボランティアで始めた活動でした。 当時は、医療的ケアのある子が退院しても、家族を支える公的な仕組みがほとんどありませんでした。
孤立するお母さんたちの声に応えて、口コミで広がっていったそうです。 その声の中には、こんなものもありました。

「きょうだいの運動会に行きたい」

読んだとき、胸がぎゅっとなりました。医療的ケアのある子も、きょうだいも、親にとってはどちらも大切なわが子です。連れていけたらいいのかもしれません。

しかし運動会となると、応援も写真撮影もあって、子どもにずっと目を配るのは難しいものです。
人が多い中で医療的ケアをするのも、勇気がいります。『医療的ケア』が少しずつ知られてきた今でも、そう感じる親は多いはずです。
1995年当時なら、なおさらだったと思います。

その後、在宅レスパイトは自治体の事業として少しずつ広がっていきます。
国の「医療的ケア児等総合支援事業」を使えば、国が費用の半分を負担してくれるしくみもあります。 ここ数年だけでも、宇都宮市(2022年)、三重県熊野市(2023年度)、山口県下関市(2024年)、兵庫県尼崎市(2024年)などが始めています。

熊野市の場合、きっかけは2021年の保護者からの声でした。 ほかの地域の事例を知った保護者が、「うちの市にもほしい」と伝えたことから始まったそうです。
声をあげれば、制度は動く。 ここにも、その実例がありました。

正直に言うと、当時の私は、看護師さんが家に来てくれる形のレスパイトがあることすら知りませんでした。 主治医の病院でレスパイト入院ができたので、それ以外を案内されることもなかったんです。

もし当時、看護師さんが家に来てくれる仕組みを知っていたら。 息子は慣れた家にいたまま、私は少し眠れたかもしれません。 「入院させるのはかわいそう」という悩みも、ずいぶん軽くなったはずです。

知らなければ、選ぶこともできない。 これも、私が身をもって知ったことのひとつです。

② 短期入所の受け入れを後押しする仕組みができた

2024年度の制度の見直し(障害福祉サービス等の報酬改定)では、こんな変更がありました。

  • 医療型の短期入所で、利用する前に職員が自宅を訪問し、ケアのやり方を確かめてから受け入れると、施設に報酬がつくようになった
  • 緊急の短期入所を受け入れたときの報酬が見直された

まさに私があのレスパイト入院で困ったことへの答えです
事前に家でケアの流れを見てもらえれば、当日に何時間も説明する必要はなくなります。
そして、安心して預けられる。これは、レスパイトを利用する親の心の負担も減らせます。

③ 国の予算も少しずつ広がっている

2026年度の国の予算では、医療的ケア児の支援のうち「一時預かり」が拡充されました。 また、支援の対象が、18歳を超えて大人の福祉サービスにつながるまでの間にも広げられています。

さらに、2027年4月からは改正された医療的ケア児支援法が施行されます。 支援の対象は、18歳以上や重症心身障害者にも広がります。

それでも残る「地域差」

今風に言うなら、地域ガチャ?

在宅レスパイトは、国が全国一律で決めた制度ではありません。
自治体ごとの事業なので、あるかどうか、何時間使えるかは、住んでいる場所で決まります。

いくつかの自治体の公式サイトを調べてみました。(2026年10月時点)

自治体年間に使える時間自己負担など
東京都文京区288時間世帯の課税状況による
東京都江東区288時間区の案内を確認
東京都千代田区208時間なし
福岡市104時間(2026年4月から)なし
広島市48時間1時間750円(非課税世帯などは免除)
宇都宮市48時間(2022年11月開始)なし
山口県下関市48時間(2024年開始)なし
横浜市24時間(2026年度に6時間から拡充)なし
兵庫県尼崎市18時間(2024年9月開始)なし

あくまで一部ではありますが、同じ「在宅レスパイト」でも、年に288時間使える街と、18時間の街があります。 その差は、16倍です。

288時間なら、月に24時間。 週に1回、半日ほど看護師さんに来てもらえる計算です。 18時間なら、月に1時間半です。 これでは、ひと眠りする時間にも足りません。

もちろん、各自治体はそれぞれに努力しています。 横浜市は今年度、時間を4倍に増やしました。 福岡市は、人工呼吸器を24時間使っている子には年338時間まで使えるようにする試みもしています。

それでも、「どこに住んでいるか」で、親が眠れる時間が変わる。 そして、この表に載っていない自治体の中には、そもそも事業がないところもあります。 これが、今の現実です。

泊まれる施設も、まだ少ない

子どもが泊まれる短期入所の施設も、数が足りていません。

今、私がソーシャルワーカーさんから紹介されている利用可能な施設は、3か所だけです。 医療的ケアのある子を泊まりで預かれる場所は、それくらい限られているんです。

例として、ある施設を紹介します。 医療的ケアのある子どもと家族のための、短期入所の施設です。 公式サイトによると、利用の条件はこうなっています。

  • 対象は0歳から19歳未満
  • 医療的ケアが必要な子が優先
  • 市区町村から「短期入所」の支給決定(受給者証)を受けていること

利用の目安も紹介されています。

  • 1回の利用は最長9泊10日まで
  • 原則、ひと月に1回
  • 初めての利用は2泊3日から
  • 予約は、利用したい月の2か月前に行う

ここでも大事なのは、「受給者証が先に必要」という点です。 使いたいと思った日から手続きを始めても、すぐには使えません。

倒れて気づいた――断れたのは、倒れなかったから

去年の冬のこと

去年の12月、当時小学1年生だった息子がノロウイルスにかかりました。 看病しているうちに、私にもうつりました。嘔吐が止まらず、脱水などのためか、体はどんどん動かなくなっていきました。
「次に寝落ちたら、そのまま死んだりして……」 本気でそう考えました。

助けを呼んでも、医療的ケアのある息子を預かれる人はいません。
救急車を呼んでも、救急隊員さんは息子を置いて私だけを運ぶことはできません。

結局、主治医の先生が息子の入院を受け入れてくれました。
私が救急車で運ばれたのは、その確認がとれたあとです。 連絡してから1時間以上たっていました。

この話は、医療的ケア児支援法改正の記事にもくわしく書いています。

あの入院は「緊急のレスパイト」だった

今ふり返ると、あのときの息子の入院は、実質的には「緊急のレスパイト」でした。

でも、それは制度として用意されていたものではありません。
主治医の先生が、その場で受け入れてくれたから成り立っただけです。 もしベッドが空いていなかったら、もし夜中だったら。私は救急車に乗ることさえ、あきらめていたと思います。

そして、例に挙げた施設でも、公式のQ&Aに「現在は緊急入所を行っておりません」と書かれています。実際、親からケアの内容や普段の様子をしっかり聞かずに、預かることはできないでしょう。
それは良く理解できます。
同じ「経管栄養」でも、量や速さ、むせやすいタイミング、嫌がるときのサインは、子どもによって全然違うからです。

2020年の私に言いたいこと

当時の私は、レスパイトを断りました。 理由はどれも、息子を思ってのことでした。
その気持ちは、今も間違っていなかったと思います。

インフルエンザで熱を出したときも、ひとりで息子を見て乗り切りました。
実際「なんとかなる」と思っていたんです。しかし、なんとかなったのは、たまたま。
断れたのは、それまで倒れるほどの病気をしなかったから。つまり、運が良かっただけのことでした。

レスパイトは、「限界が来たら使うもの」ではないと、今は思います。
元気なうちに、いつでも使える状態にしておく「命綱」です。

命綱はつないでおかないと、いざというときに使えません。
レスパイトも同じ。事前の登録や面談がないと、緊急のときには間に合わないです。

補足:今のうちにやっておきたい6つの準備

制度が整うのを待つだけでは、自分たちは守れません。 今日からできる準備を、5つにまとめました。

① 自分の自治体に在宅レスパイトがあるか調べる

検索窓に「(お住まいの市区町村名) 医療的ケア児 在宅レスパイト」と入れてみてください。
見つからなければ、市区町村の障害福祉の窓口か、医療的ケア児支援センターに電話で聞きましょう。 「重症心身障害児 在宅レスパイト」という名前の事業もあるので、あわせて探してみてください。

② 使う予定がなくても、登録だけしておく

多くの在宅レスパイト事業は、事前の登録制です。
登録が終わって、通知が届いてから、やっと使えるようになります。 在宅レスパイトに対応している訪問看護ステーションを、利用していることが条件の自治体もあります。
当然と言えば当然です。普段利用しているからこそ、保護者が数時間いなくても大丈夫なわけですから。

在宅レスパイトの利用を検討しているのであれば、訪問看護さんと契約する前にまずサービスとして提供しているかを問い合わせをする必要があります。
結構最初の段階から、想定した上で事業所を選ぶ必要があるということです。
現在すでにご利用中の訪問看護ステーションさんがあれば、在宅レスパイトが利用できるかを聞いてみて下さい。

③ 短期入所の受給者証を取って、施設と一度会っておく

短期入所を使うには、市区町村から「受給者証」をもらう必要があります。 使う予定がなくても、先に申請しておきましょう。

施設は、次のところで探せます。

  • 主治医の病院のソーシャルワーカーさん(いちばん確実です)
  • 相談支援専門員さん
  • お住まいの都道府県の医療的ケア児支援センター

施設が見つかったら、事前の面談や見学をお願いしてみてください。
2024年度からは、利用前に自宅を訪問してケアを確かめる仕組みもできています。 「そういう訪問はしてもらえますか?」と聞いてみる価値はあります。

④ ケアの流れを「時間の順番」で1枚にまとめる

朝から夜まで、何時に何をするかを、時間の順番に書いた紙を1枚作っておきましょう。

  • 何時に、何を、どれくらい注入するか
  • 飲み薬の時間
  • 吸引や体位変換のタイミング
  • 機嫌が悪いときのサインと、落ち着く方法

これがあれば、レスパイト先でも、急な入院先でも、説明の時間がぐっと減ります。

⑤ ケア用品をまとめたバッグを常に用意

私は自分が倒れた時、翌日の放課後等デイサービス(放デイ)用のバッグが目の前にありました。中には1日分の栄養剤やお薬、医療的ケア用品とおむつが入っています。ここにタオルとパジャマをねじ込んで持って行ってもらいました。
これは不幸中の幸いでした。そして、常備しておく必要性を強く感じました。

⑥緊急時の連絡先リストを作る

主治医の病院、訪問看護ステーション、相談支援専門員さん、自治体の窓口。 いざというときに電話する先を、スマホのメモと紙の両方に残しておきましょう。
自分が倒れたとき、救急隊員さんや家族が見られる場所に貼っておくと安心です。

まとめ

2020年から6年がたち、レスパイトの仕組みは少しずつ前に進んでいます。 在宅レスパイトは広がり、短期入所の受け入れを後押しする仕組みもできました。

でも、使える時間は住む場所で最大16倍も違います。 そもそも事業がない自治体もあります。 そして、「急に親が倒れたとき」にすぐ使える仕組みは、まだほとんどありません。

だからこそ、伝えたいことがあります。
レスパイトは、限界になってから使うものではなく、元気なうちに準備しておくものです。

わかります。 「子どもを預けるなんて」と思う気持ちも、「まだ大丈夫」と思う気持ちも。
私もそうでした。 しかし、大丈夫と思っていても倒れるんです。

あなたがいなくては困る、その子のために。自分を大切にすることが最大のケアです。

参考にした情報

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