医療的ケア児の「在宅物品」はなぜ足りない?シリンジ月124本のうち支給は14本という現実

医ケア・難病児

医療的ケアのあるご家族を持つ方が困ることとして、よく耳にする困りごと。

「在宅物品って保険で出るはずなのに、全然足りない」

「支給されたシリンジがすぐ使えなくなる」

そんな人に話しづらいもやもやを抱えていませんか?

この記事では、在宅物品が支給される仕組みと、医療機関によって差が出る理由
そして、今まさに起きている医療資材不足の背景がわかります。
あわせて、シリンジを少しでも長持ちさせる工夫もお伝えします。知っているだけで、優先して買い足しておいた方がいい物と、在宅物品が足りなくなったときの慌て方が変わります。

医療的ケア児の「在宅物品」とは何か

在宅医療実施家庭への物品支給事情

結論から言うと、在宅物品は「無料でもらえるサービス」ではありません。

医療機関が「在宅療養指導管理料」という診療報酬を算定することで、その中に含まれる特定保険医療材料や衛生用品を、患者側の実費負担なしで支給できる、という保険のしくみです。

理由はシンプルで、これは医療機関が受け取る診療報酬の枠内でまかなわれているからです。

たとえば胃ろうや経鼻経管栄養を行っているお子さんなら、注入用のシリンジやチューブ、栄養剤を落とすための栄養ボトルなどが対象になります。
同様に在宅酸素なら、カニューレを固定するためのテープ類がこれにあたります。

つまり「保険適用」とは言っても、実際に手元に届く物品の中身や本数は、法律で一律に決まっているわけではないのです。ここが、多くのご家庭が誤解しやすいポイントだと感じています。

保険適用でも医療機関ごとに支給品が違う理由

病院ごとの裁量差

在宅療養指導管理料は、算定する医療機関の裁量にゆだねられている部分が大きい制度です。
同じ「胃ろうの経管栄養」でも、A病院では月20本のシリンジがもらえるのに、B病院では月10本しかもらえない、ということが普通に起こります。

理由はいくつか考えられます。

  • 診療報酬に含まれる衛生材料費には上限があり、医療機関側の持ち出しになりやすいこと
  • 病院ごとに「これくらいで足りるだろう」という基準が違うこと
  • 材料費そのものが年々上昇しており、医療機関も余裕を持って渡しにくくなっていること

つまり、支給数が少ないのは「あなたの病院がケチだから」ではなく、制度そのものに医療機関側の負担がのしかかる構造になっているからなのです。

指定通りの使い捨てでは必要数124本に対して支給は14本

どうやっても不足する

わが家では経管栄養です。このため、栄養の注入にシリンジを使います。
添付文書どおり「使い捨て」で運用すると、1か月に必要な本数はおよそ124本になります。
1日4回の注入で、医療機関での使い方で運用する場合。という話です。

でも、実際に医療機関から支給されるのは月14本。
差し引き110本全てを自費でネット通販から買い足すと、まとめ買いにより1本あたりの単価は120円~150円と決して高くはありません。しかし、積み重なれば毎月それなりの出費です。

購入であればネットでまとめ買いが最強

ちなみにその辺のドラッグストアでは陳列はまれですが、調剤薬局や大病院の売店で見かけることがあります。しかし、やや単価が上がる傾向にあるため、ネット購入がおすすめです。
しかも「本来は保険の範囲のはずのもの」を自腹で埋めている、という感覚はどうしても拭えません。

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追い打ちをかける、ナフサ不足による医療資材の高騰

中東情勢が影響

さらに厳しい現実があります。

2026年に入り、中東情勢の影響でナフサ(プラスチック原料)が不足しました。
シリンジや点滴バッグ、透析回路といった医療用プラスチック製品の供給そのものが揺らいでいます。

厚生労働省と経済産業省は2026年3月31日に対策本部を設置し、4月半ばから8月ごろにかけて供給不足に陥る可能性があると指摘しました。経済産業省は「重要物資安定供給タスクフォース」を立ち上げ、小児用カテーテルなど命に関わる物資を優先的に配分する調整を進めています。

医療機関の経営を圧迫

厄介なのは、原料価格が上がっても、医療機関が受け取る診療報酬にはすぐ反映されないことです。
医療機関の診療報酬改定は2026年2月の答申で判断されたため、その後の中東情勢を加味されていません。材料費が上がった分は、医療機関側が身銭を切って埋めるしかありません。

この構造が続けば、これまで支給されていた物品が「経営が厳しいので支給を減らします」という形で、静かに縮小していく可能性があります。
実際に、私が利用している医療機関では、在宅物品の中から、医療用テープの支給が無くなりました。

エンドユーザーへのしわ寄せ

政府としては国内需要4か月分の確保や、中東以外からの代替調達を進めており、マクロで見れば供給量そのものは大きく崩れていないとされています。しかし、現場レベルでの不足が指摘されており、末端の在宅療養家庭にそのしわ寄せが来たことになります。

シリンジのゴム部分を長持ちさせる工夫

家庭で出来ること

支給数が減ることが想定される以上、今あるものを少しでも長く使う工夫も必要です。わが家や同じ悩みを持つ方々の間で言われている工夫を、補足としてまとめます。

シリンジのゴムのお手入れ

  • 消毒液(ミルトンなど)への浸け置きは避け、水洗いだけにする
  • 食器乾燥機は使わず、使用後はすぐに手で洗う(洗剤不使用)
  • ミキサー食や半固形栄養剤を通したものは劣化が早いので、水分だけを通すものと使い分ける
  • シリンジゴム部分をオリーブ油やサラダ油を付けて保護し、摩滅を防ぐ

ただし、これらはあくまで「支給が足りない中でのやりくり」であり、安全性の観点から万能ではありません。当然、医療機関では勧めないでしょう。
しっかりと衛生面に配慮した上で、再利用の判断は必ず自己責任で行ってください。

参考までに、シリンジとは違い、栄養ボトルやルートはミルトンでの消毒をして再利用しています。

今後の課題

在宅物品をめぐる課題は、突き詰めると次の3つに集約されると感じています。

1つ目は、支給基準が医療機関ごとにばらばらで、家庭からは「なぜうちだけ少ないのか」が見えにくいこと。
2つ目は、材料費の高騰が診療報酬に反映されるまでのタイムラグが大きく、しわ寄せが医療機関経由で家庭に流れてくること。
3つ目は、こうした「支給と実態のズレ」が、当事者家庭の声としてほとんど可視化されていないことです。

制度を変えるのは簡単ではありません。それでも、まずは「うちはこうだった」という体験談が積み重なることで、初めて実態調査や制度改善の材料になります。

まとめと最初の一歩

在宅物品は、保険適用とはいえ「必要な分が自動的にもらえる制度」ではありません。医療機関ごとの差があり、ナフサ不足のような外部要因で今後さらに厳しくなる可能性もあります。

今日からできる最初の一歩として、まずはご自身のご家庭で「本来必要な本数」と「実際の支給本数」を一度書き出してみてください。
差がどれくらいあるか、数字で見えるだけでも、今後の備えの判断材料になります。

ご活用いただけましたら幸いです。

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